ジャック・スピラのインレイワーク逸話。

 

 

 

今やジャック・スピラと言えば、指板にダイナミックに施されたインレイ・ワークをイメージする方も多いかもしれません。

確かに宇宙デザイン・インレイのギターなどは、すい寄せられるような美しさですよね!
これまでに宇宙デザインのギターは5本リリースされましたが、どれもあっという間に買い手がつく人気ぶり。

ところがところが…、実はジャック・スピラ本人はインレイ・ワークについて、あまり得意感がないようで…。むしろ事あるごとに「僕のインレイはまだまだだよ…」みたいなことを言ってみたり、自分のインレイを眺めるたびに「Terrible!(ひどいっ!)」って小さく叫んでみたり…笑。

こちらオーストラリアでは、ジャックのインレイワークは他の多くのギター職人さんにも認められてますし、ギター製作学校に頼まれてインレイワークの講師をしたりしてるほどなのですが…。

ジャックがとても謙虚な性格だということは、ジャックファンの方にはもうご承知の事実かと思いますが、ジャック本人の中では、自身のインレイ・ワークについてはとても自己評価が低いのですね…。

私がジャックと初めて出会った当時、ジャックはインレイワークは減らしていこうと考えていたようでした。ジャック自身は、「ギター職人の本分は鳴りの良いギターを作ること」、サウンドをもっともっと追求したいと考えていたようです。

そのごとく、ジャックは本当にいろいろな試行錯誤をします。他のギター職人さんのように、モデルを固定して効率を図れば良いのに…と思ったりもするのですが、本当にギター作りが好きなのでしょう。最近しみじみと、これがジャック・スピラなんだなと思います。

17歳からギターを作り始めて、一度入学した大学さえやめて、渡英して本格的にギター製作を習いに行った情熱は、それ以来30年を過ぎた今なお変わらず、脇目もふらず、兎にも角にもギター作り一筋の人生なんですね。

先日、吉川忠英さんが気に入ってご購入いただいたギターも、実はこれまでと全く違った構造を試してみたくて作った試作品でしたが、忠英さんのお好みにバッチリはまって何とも幸運!ジャックもとても嬉しそうでした^^

→吉川忠英さんのこのエピソードはこちら

 

さて、インレイの話に戻りますが、インレイの仕事を減らそうとしていたジャックなのに、大胆なインレイの入ったギターが多いのは??

実はこれ…、私の仕業なんです。今になって、ジャックに申し訳なかったかな…と反省しているのですが、ワケは後ほど。。

ジャックは30年来ずっと、お客様の要望に応じて100%オーダーメイドのギターを作って来たため、お客様のお気に入りのデザインでインレイを入れる仕事が少なくありませんでした。

そして私がジャックと知り合った当時、工房に行く度に「お客様からのオーダー品なんだよ」と言っては、美しいインレイを施したギターを見せてくれて、何度もうっとりと眺めていたわけです。

さていよいよ日本にジャックのギターを輸入しようと考え始めた時に、数ある個性的なギターの市場で、ジャックのギターを印象づけるには、このインレイが強みになるのでは…と考えました。

ジャックのギターが世に知られるまでは、大胆にインレイを施したものを投入し、知名度が上がる頃にはサウンドの良さもきっとわかってもらえるはずだから、その後にシンプルなギターに切り替えていこう…という方針を決め、ジャックにお願いして輸入を開始したのでした。

そして現在、日本でも一定の知名度は得られたものの…、実は私自身ちょっとやりすぎちゃった感があります。。

…と申しますのも、オーストラリアで好まれるインレイと日本とでは若干異なり、日本では大胆なものより、ちょっとしたワンポイントなど、無難なものが好まれるということがここ数年でわかりました。これは私のリサーチ不足…。

そして「ジャックのギター、サウンドはいいんだけど、インレイがちょっと派手すぎるんだよなあ…」と感じている方がいらっしゃいましたら、それはジャックのせいではありませんし、ジャックの本質でもありません。。

ジャック本人は、実はとてもシンプルなギターが好きなんです。

他に類がない分、この大胆なインレイワークをすごく気に入ってくれるお客様も確かに多いのですが、音を追求したいジャックの気持ちを考えると、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ、ジャック悪かったかなぁ…って、今になって反省してます。。

そして今になれば、当時ジャックがインレイの仕事を減らしていこうと考えていた理由が良くわかります。ジャックは根っからのギター職人であり、ギターのサウンドへの飽くなき探求心がジャック・スピラのギター製作への情熱の源泉です。

そして、ジャックはギター業界での仕事が長いですから、もちろんインレイの道を究めた達人も数多く知っています。だからこそ、自分のインレイワークはそうした達人たちには及ばないことも重々承知していて、自分の本分はそこではないということをわきまえている…ということなのだと思います。

そして、ジャック自身にとってのインレイワークは、自分のギターを気に入って使ってくれる方への感謝の一環としてのサービスみたいな感覚のようです。

ですから、ギターをオーダーしてくれた方々が、そのギターに「より愛着を感じてくれるなら、喜んでインレイを掘りましょう!」という気持ちなのでしょう。

そんなわけで、ジャックはインレイワークには、あまり多くのチャージを取りません。カスタマーの要望で、たくさんのインレイを作ってきたからか、作業はとても早いのですが、それでも原材料と製作時間を考えると間違いなく「赤字」だと思います。でも、そこがお人よしなジャックの愛されるところなのでしょうね。

オーストラリア国内でもジャックのお客様は、一人で何本もオーダーしているようなリピーターが本当に多いです。

最後にひとつ余談なんですが、ジャックはギターオーダーの依頼主からインレイのデザインをお任せされること良くあります。

ジャックがこれまで作ってきたインレイワークを見て、ジャックならきっと素敵なデザインで仕上げてくれるに違いない…という期待からなのでしょう。

ところが、ジャックはこうしたインレイデザインのお任せオーダーをいただくと、デザインの段階で頭を抱えてしまい作業がなかなか進まないことが多く、私が知っている限りデザインが確定して製作が「始まる」までに1年以上かかったギターを2~3本知っています…笑。

作り始まると手際良くとても早いんですけどね。。

とはいっても、私自身もジャックのインレイが大好きですし、オーダーいただく方にもお好きなデザインのインレイを施して一生の宝物にして欲しいと思います。きっとジャックも同じ気持ちでしょう。

ただし…デザインは、きちんと指定してあげた方がベターです!そうでないと製作に2年もかかっちゃうかもしれません…(笑)

もしインレイを入れたいけど、おおよそのイメージしかできないとか、自分でデザインを考えたり、書いたりするのはちょっと…という方がいらっしゃいましたら、私たちがサポート致しますので、お気軽にご連絡下さいね~^^

ちなみにジャックが良く施すあの美しいトンボのインレイは、2時間ほどで仕上げてしまうんですよ!

実は私自身がジャックのギターの仕事を始めて5年目にして、ようやくオーダーできた私のギターにもこの「ジャック・トンボ」のインレイを入れてもらいました。

ジャック本人が気に入っているジャックらしいデザインですし、前にしか進まない、勝ち虫として縁起のいいシンボルとされていることもあります。

そして、私がもともとお米の仕事していたからということもあり、なおさらにこの「ジャック・トンボ」にご縁を感じたというのもあります。

ジャックのギターに専念したい気持ちと裏腹に、ジャックのインレイを愛する人が多いのも何かうなずけますね!

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